領域概要

領域代表から

私たちは、多くの生き物と関わりあいながら暮らしていますが、現在の科学では、たった一坪の地面の中の生態系を完全に知ることができません。これは、1gの土の中に生息する10億もの微生物の多くが、機能がわからない未知種であることが一因です。では、現代の科学において取り残されているともいえるこの未解明な微生物を知る方法はないのでしょうか。

私たちが取り組む新学術領域「ポストコッホ生態」の研究は、新たなテクノロジーを駆使して未解明な微生物を分離・解析する新たなポストコッホ型の微生物学を創成します。さらに、得られる情報を活用し、微生物の種と機能に基づいて生態系を理解することを目指します。このためには、理工学、微生物学、生態学、情報学の密な連携と常識にとらわれない柔軟な研究が重要であると考えています。

微生物は、食料生産、環境保全、健康の基盤を支える重要な生物群です。生命の進化や人類の文化を考える基盤でもあります。微生物を理解し利用することで、人と地球を考える全ての学問に少しでも貢献できないか?これがこの領域が期待することです。

筑波大学・生命環境系・教授
微生物サステイナビリティ研究センター長
高谷 直樹(たかや なおき)

領域代表:高谷 直樹
筑波大学生命環境系
微生物サステイナビリティ研究センター

ポストコッホ機能生態学とは?

私たちにとってかけがえのない地球では、地表の水、土、大気、生物と様々な微生物が複雑に相互作用していることがわかってきました。この中で、微生物は地球上の生きているバイオマスの多くを占め、種の数も数百万種以上とも試算されています。これは、地球の生態系の成り立ちを理解するためには、微生物を知ることが重要である可能性を示唆するものと考えています。

これまでに多くの微生物研究者が環境中から新たな微生物を発見してきました。しかし、近年のメタゲノム解析の成果等により、これまでに分離・培養された微生物の種は地球全体の微生物の種の1%にも満たないことが明らかになってきました。多くの微生物が未分離な理由の一つは、現在の主流であり、R. コッホらによって開発された寒天培地を利用した微生物の分離手法の限界のためであると考えられます。この限界を打ち破り、新たな微生物を分離し、それらの役割を解明すれば、我々の地球生態系の理解が加速されるはずです。

そこで、本領域では、理工学と微生物学の融合によって新たなポストコッホ微生物分離技術を創出し、未だ分離されていない微生物を解明します。さらに、生態学と情報学を駆使した新たな機能インフォマティクスによって、微生物の種を基軸とした新たな生態系モデルを構築します。もちろん、このゴールは壮大であり研究期間内で地球生態系の全てを解明できるわけではありません。本領域によって新たに創出されるポストコッホ機能生態学は、このゴールを導くための基盤・先駆けとなる挑戦をします。そして、持続可能な地球を創成するための未来の環境制御と積極的なデザインの技術へと貢献します。