領域概要

領域代表から

私たちは、多くの生き物と関わりあいながら暮らしていますが、現在の科学では、たった一坪の地面の中の生態系を完全に知ることができません。これは、1gの土壌中に生息する10億もの微生物の多くが、機能がわからない未知種であるためです。では、現代の科学において取り残されているともいえるこの未解明な微生物を知る方法はないのでしょうか。

私たちが取り組む新学術領域「ポストコッホ生態」の研究は、新たなテクノロジーを駆使して未解明な微生物を分離・解析する新たなポストコッホ型の微生物学を創成します。さらに、得られる情報を活用し、微生物の種と機能に基づいて生態系を理解することを目指します。このためには、理工学、微生物学、生態学、情報学の密な連携と常識にとらわれない柔軟な発想が重要であると考えています。

微生物は、食料生産、環境保全、健康の基盤を支える重要な生物群です。生命の進化や人類の文化を考える基盤でもあります。微生物を理解し利用することで、人と地球を考える全ての学問に貢献すること、これがこの領域の究極的な目標です。

令和元年8月30日
筑波大学・生命環境系・教授
微生物サステイナビリティ研究センター長
高谷 直樹(たかや なおき)

領域代表:高谷 直樹
筑波大学生命環境系
微生物サステイナビリティ研究センター

ポストコッホ機能生態学とは?

我々にとって、かけがえのない地球は、地表の水、土、大気と多様な生物が複雑に相互作用し恒常性を維持する超地球生命体のシステムを形成しているると考えられます。この中で、微生物は地球上の生きているバイオマスの半分を占め、種の数も動植物や昆虫を凌ぐ数百万種以上とも試算されています。これは、地球の生態系(超地球生命体)を理解するためには、微生物を理解することが重要であることを意味します。

このような背景から、これまでに多くの微生物が環境中から分離されてきましたが、その種は地球全体の微生物の1%にも満たないことが明らかになってきました。多くの微生物が未分離な理由の一つは、現在の主流であり、R. コッホらによって開発された寒天培地を利用した微生物の分離手法の限界のためだと考えられます。この限界を打ち破り、新たな微生物を分離し、それらの役割を解明すれば、我々の地球生態系の理解が加速されるはずです。

そこで、本領域では、理工学と微生物学の融合によって新たなポストコッホ微生物分離技術を創出し、未だ分離されていない微生物を解明します。さらに、生態学と情報学を駆使した新たな機能インフォマティクスによって、微生物の種と機能およびその生育環境を基軸とした新たな生態系モデルを構築します。この新たな生態系モデルは、超地球生命体の構築原理の解明を導くとともに、持続可能な地球を創成するための新たな環境制御とデザインの技術にも貢献します。